2025年度は、『逆転のトライアングル』で人気に火がつき、『ベイビーガール』ではニコール・キッドマンの相手役となったことで大きな話題になった、俳優ハリス・ディキンソンの初監督作「Urchin」や、ハリー・ポッターのダドリーの面影は今や微塵もない、素晴らしい役者に豹変したハリー・メリングと、スカルスガルド兄弟の長男坊(大人気の俳優をこんな表現をして良いものなのか)、アレクサンダーが共演した「Pillion」。
と、まだ日本で公開されていない作品を言及してもあまり実感がないが、日本でも興行的ヒットを収めた『アフターサン』。これらの作品に共通していることがある。
それは監督デビュー作品として、英国映画協会・国営宝くじから資金提供を受けているという点だ。
イギリスが世界に誇るBritish Film Institute=英国映画協会の功績を一つ一つ語れば、尽きることはないのでそれは割愛するが、彼らとThe National Lottery=国営宝くじが運営する基金’Discovery Feature Funding’では毎年、この長編デビュー作を対象にしたファンディングを行っている。
https://www.bfi.org.uk/get-funding-support/create-films-tv-or-new-formats-storytelling/bfi-filmmaking-fund-discovery-impact-feature-funding#:~:text=Discovery%20feature%20funding%20provides%20awards,weeks%20after%20the%20closing%20date.
The National Lotteryの収益の内訳。4分の1以上がアート・スポーツに当てられているのは素晴らしいことのように思える。
https://www.news-digest.co.uk/news/features/18818-history-of-the-lottery.html
もちろん映画がどれだけ評価されるかは、キャスティングやどんな会社が配給するかなども大事であるし、(『アフターサン』は、英国随一のMUBIが、「Pillion」「Urchin」は独立系映画館でもワンオブトップなPicturehouseが手掛けたことでも、その成功が伺える。)そのようなネットワーキングを手助けしているのもBFIだが、毎年毎年、クオリティの高い監督デビュー作に出会える、そのシステムにいち観客として感動している。『アフターサン』が、ポール・メスカルの現在の鰻登りの人気に貢献したのも当然のことながら、デビュー作でアカデミー賞にノミネートされたことは、あまりにも輝かしい。
なぜそんなに国が大々的に若手を支援をするのか、という問いも生まれるのかもしれないが、アカデミー賞国際長編映画部門の各作品の戦略を見ていると、やはりその一面には、国ごとの戦いであることは見て取れるだろう。
今でこそ非英語圏の映画も主要賞にノミネート・受賞しているが、元来アカデミー賞は「アメリカ映画の祭典」という立ち位置であった。であることから、非英語圏の各国は、毎年どの一本を国代表に選出し、ショートリスト、ノミネート、受賞までにどうこじつけるのか、と躍起になっている。 パルムドールでは頻繁にその名が上がるフランスだが、アカデミー賞国際長編映画賞に限って言えば、2020年代では昨年の『エミリア・ペレス』の一回のノミネートのみ。2010年代もラジ・リ監督『レ・ミゼラブル』、『裸足の季節』の二回のノミネートのみ、と受賞作品を調べると92年『インドシナ』まで遡ることになる。 「It was just an accident」は、イラン政府から映画作りを禁止されているパナヒはもちろんイラン代表と選出されることはないことから、共同制作国であるフランスから選出。フランスにとっても待望の今部門の受賞が期待されている。
さてさてどんどん話が外れてしまったが、日本はどうかと言われれば、もちろん文化庁が主催する補助金制度や、国際共同制作(イギリスでは逆に共同制作的補助がない)など、様々に制度そのものは存在するが、日本では製作委員会方式で制作費を集めることが多く、その功罪として、名が立つ監督が、有名な俳優と、ベストセラーの小説を元に…、と既に映画が完成する前から立派な宣伝文句が並ぶような形で、リスクを避ける傾向が顕著である。
それが悪いことだとは決して言わないが、それではどんどん若手監督・無名俳優のチャンス、またはチャレンジングなオリジナル脚本にも挑みづらいのも事実である。
上記のファンディングも長年かけて作り上げられたものであることは間違いなく、向こう10年、20年を見据えて、このような補助金制度が設立されることを祈るばかりだ。
事務所に届くScreen Internationalを本日も熟読しながら。